横浜市都筑区で、一人の理学療法士が新しい支援の形を作ろうと動き出しています。
普段は仲町台を中心にリハビリの専門家として活動する鎌田真陽人(かまだ まひと)さんが手がけているのは、なんと「お酒づくり」です。
医療従事者がなぜお酒を作っているのか、不思議に思う方も多いのではないでしょうか。
その背景には、就労継続支援B型(B型就労支援)事業所で働く方々の「工賃を時給並みに引き上げたい」という、切実で熱い想いがありました。
今回は、鎌田さんが障がい者支援の現場で直面した課題や、横浜の農家さんと連携して生まれた「青みかんのお酒」の開発秘話、そしてこれから始まる新しい取り組みについて詳しくご紹介します。
1. 都筑区から始まる挑戦。理学療法士がお酒をつくる理由
仲町台を拠点に活動する理学療法士・鎌田真陽人さん

鎌田さんは青森県出身で、専門学校時代に自身の膝を痛めた経験から「フェルデンクライスメソッド」という身体訓練法に出会いました。
このメソッドを通じて障がいを持つ方々と触れ合う機会が増えたことが、現在の活動の大きな原点となっています。

「身体のケアだけでなく、社会的な繋がりもサポートしたい」。そんな熱い想いを胸に、現在は都筑区の仲町台を中心に、訪問リハビリの現場で日々地域を駆け回っています。
きっかけは患者「Kさん」との出会い。「通える場所」の重要性
鎌田さんが「障がいと仕事」について深く考えるようになったのは、理学療法士1年目のときに出会った患者、Kさんの存在が大きかったといいます。
バリバリのエリートサラリーマンだったKさんは、脳卒中で倒れ、右半身の麻痺と「失語症」という重い後遺症を負ってしまいました。言葉で人を動かしてきた方が言葉を失う苦しみは、想像を絶するものだったでしょう。
しかしKさんは、リハビリを兼ねて馴染みの店でアルバイトを始めるなど、驚くほど前向きに行動し続けたのです。この姿から、鎌田さんは「理解してくれる人がいる、通える場所(居場所)」が、人が再び輝くために必要不可欠だと確信しました。
直面した「18歳の壁」とB型就労支援の「工賃」の現実
その後、生まれつき障がいを持つ子どもたちの放課後等デイサービスに関わる中で、鎌田さんはさらなる厳しい現実に直面します。それは「18歳の壁」と呼ばれる問題です。
障がいを持つ子どもたちは、学校を卒業する18歳以降、通える場所や働く場所が一気に減ってしまいます。さらに鎌田さんを驚かせたのは、就労継続支援B型(B型就労支援)事業所で支払われる「工賃」の低さでした。
- 1日働いても500円から1,000円程度という厳しい現実
- 「自立した生活」には程遠い金額
- ご家族がキャリアを諦めざるを得ないケースも多い
「身体が動くようになったその先、社会に受け皿がない」。この課題を解決するため、鎌田さんは自ら立ち上がる決意を固めました。
優しさだけでは給料は上がらない。工賃を上げるための「お酒づくり」

「いそがないコンビニ」ではなく、別の道を選んだ理由
障がい者支援の新しい形として、鎌田さんが当初思い描いたのは「いそがないコンビニ」でした。
店員さんは障がいを持つ方で、商品は全国の施設で作られたものを並べる、優しさにあふれたお店です。しかし、鎌田さんはその案を見送ることにします。
今回の最大の目的は「工賃を時給並みに引き上げること」だからです。
コンビニのような薄利多売のビジネスモデルでは、高い工賃を継続して払い続けることは難しく、優しさや理想だけではシビアな現実を解決できないと判断したのです。
小さくて高単価。「廃棄果実のお酒」というビジネスモデル
そこで鎌田さんが導き出した答えが、「地域で廃棄される果実や野菜で作るお酒(クラフトスピリッツ)」というアイデアでした。
お酒という「嗜好品」であれば、確かな付加価値をつけて適正な価格で販売することができます。
しっかりとした利益を生み出し、それを働き手に還元できる仕組みが作れるのです。薄利多売ではなく、小さくても高単価で質の高い商品を作る。これが、工賃アップを実現するための手段となります。
3. 使用するのは”神奈川育ち”の青みかん。農家さんと歩んだ商品化への道

「もったいない」を価値に変える。地元農家アマンダリーナさんとの連携
鎌田さんが手がけるお酒の材料に選ばれたのは、神奈川県内で育った「青みかん」です。
美味しいみかんを育てるための「摘果(間引き)」作業で、どうしても捨てられてしまう未熟なみかんに着目しました。
この取り組みには、横浜の地元農家「アマンダリーナ」さんが全面的に協力しています。
そのままでは廃棄されてしまう青みかんが、お酒の爽やかなアクセントとして生まれ変わる。
農家さんにとっては廃棄物が新たな価値となり、障がい者支援にも繋がるという、まさに地域が喜ぶ優しい循環が生まれています。
(アマンダリーナさん:公式インスタグラム)
料理との相性も抜群「青みかんのリキュール酒」の魅力
そうして完成した「青みかんのお酒」は、支援の枠を超えて、純粋に「美味しい」とおすすめできる仕上がりです。
青みかんならではの爽やかな酸味とスッキリとした甘味が特徴。
ストレートやロックはもちろんですが、炭酸水で割る「ソーダ割り」にすると、爽やかで美味しく、料理との相性も抜群でした。また飲みたくなる、そんな特別な一杯が誕生しました。
4. ただの作業じゃない。「一緒に商品を作る」ことが工賃アップに直結する仕組み

大切な工程を共に担う。高単価な商品だから生まれる仕事
このお酒づくりにおいて最も重要なポイントが、B型就労支援事業所との関わり方です。
鎌田さんは、商品の顔となる瓶のラベル貼りや箱詰めといった丁寧さが求められる作業を、単なる作業としてではなく「一緒に商品を作り上げる大切な工程」として依頼し、一般的な相場よりも高い単価で発注する仕組みを作りました。
高単価なお酒という商品だからこそ、作業工程にもしっかりとした「高い工賃」を支払うことができます。
支援という枠組みを超えて、商品づくりを共に担うことで、作り手のやりがいや誇りにも繋がっているのです。
お酒の価格に込められた「働き手への還元」という想い
今回販売されるお酒は、一般的な商品と比べると少し高めの価格設定になっています。そこには、明確な理由があります。
「売れたお金を、しっかりと障がいを持つ方々の給料(工賃)として還元したい」
価格には、働き手の自立を支えるための適正な対価が含まれています。
お酒を美味しく味わうための代金が、回り回って誰かの生活を豊かにし、地域社会を良くしていく。そんな温かい想いが込められた価格設定といえるでしょう。
5. 「お酒づくりと福祉」に関する質問
そもそも就労継続支援の「B型」とは?「A型」もあるのでしょうか?
はい、「A型」と「B型」の両方があります。大きな違いは「雇用契約を結ぶかどうか」です。
「A型」は事業所と雇用契約を結んで働くため、原則として最低賃金が保証されます。
一方、鎌田さんが関わっている「B型」は、年齢や体力などの面から雇用契約を結んで働くことが難しい方が、自分のペースで生産活動や訓練を行う場所です。
雇用契約を結ばないため、作業の対価は給料ではなく「工賃」として支払われます。
B型就労支援の工賃とは何ですか?
障がいや難病のある方が、雇用契約を結ばずに就労訓練を行う「就労継続支援B型」において、生産活動の対価として支払われるお金のことです。
全国平均で見ても月額1万7千円前後(1日あたり数百円から千円程度)と低く、自立した生活を送るための課題となっています。鎌田さんは、まさにこの「B型の工賃」を引き上げるために挑戦しているのです。
なぜ廃棄される青みかんをお酒に使っているのですか?
地域の「もったいない」資源を活用するためです。
美味しいみかんを育てる過程で間引かれる青みかんは、爽やかな香りと酸味があり、お酒のアクセントに最適です。農家の廃棄ロスを減らしつつ、付加価値の高い商品を生み出しています。
お酒はどこで購入できるようになりますか?
まずはクラウドファンディングのリターン品として先行でお届けします。
今後は、都筑区をはじめ、神奈川県内の飲食店での提供や、店舗での販売も視野に入れており、継続的な販売ルートを整えていく予定です。
クラウドファンディングの支援金はどう使われますか?
美味しいお酒を製造するための資金(材料費や酒造りの委託費)のほか、商品のパッケージング等に携わるB型就労支援事業所の方々への「工賃」として、しっかりと還元させていただきます。
6. 【2026年11月20日スタート】クラウドファンディングで応援しよう!

一杯のお酒が、誰かの「働く喜び」になる
鎌田さんのこの熱い挑戦は、11月20日(仮)からクラウドファンディングという形で新たなスタートを切ります。
支援のリターンとして、完成したばかりの「青みかんのお酒」がいち早くお手元に届きます。
このお酒を購入して味わうことが、そのまま地元横浜の農家さんへの貢献となり、障がいを持つ方々の工賃アップにも直結する仕組みです。
「福祉のために」と気負う必要はありません。まずは、地域の素材で作られたお酒を美味しく楽しむことから、この温かい支援の循環に参加していただけたら幸いです。
※クラウドファンディングについては随時情報を更新いたします。
都筑区から広がる、誰も取り残さない社会への一歩
今後は法人化を見据え、都筑区の地元企業や飲食店とさらに連携を深めていく予定だという鎌田さん。
理学療法士としての知見と、お酒づくりを通じた新しい居場所づくりが、ここ都筑区から始まっています。
誰もが誇りを持って働き、適正な工賃を受け取れる「誰一人取り残さない社会」へ。
横浜の農家さんが育てた青みかんの香りと、鎌田さんの情熱が詰まったプロジェクトを、ぜひ一緒に応援してみましょう。
まとめ

今回は、横浜市都筑区で活動する理学療法士・鎌田真陽人さんによる、B型就労支援の工賃向上を目指したお酒づくりの挑戦についてご紹介しました。
1日500円から1,000円程度という厳しい工賃の現実を変えるのは、決して簡単なことではありません。
それでも、優しさや理想だけでなく「小さくても高単価で質の高い商品を作る」というビジネスの視点を取り入れた鎌田さんの挑戦は、現状を少しずつ良くしていくための確かな一歩と言えるのではないでしょうか。
2026年11月20日からは、このプロジェクトを応援できるクラウドファンディングもスタートします。
神奈川の青みかんから生まれた美味しいお酒が、誰かの自立を支える力に変わります。
都筑区から始まるこの挑戦に興味を持たれた方は、ぜひクラウドファンディングのページをチェックして、新しい応援の形に参加してみてください。


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